おなじ景色が見れたらな

いろんな感想ごちゃ混ぜ

2020.07 「落下する夕方」読んだよ

落下する夕方

https://www.amazon.co.jp/dp/4043480016/ref=cm_sw_r_cp_api_i_VJHA0NTDFYQ09AY60W1R

▶︎こちらの本です。

 

読んでいるとなんだか地に足がつかなくてとても夢見心地になるような話だった。 

主人公の梨香はある日突然、8年間付き合っていた健吾に引っ越すと言われる。(まぁつまり別れるって意味なんだけど)でも主人公はその事実を知ってもいつも通りに暮らす。健吾はもうその部屋にいないけどあたかもいるかのように少しでも以前と同じまま彼を感じていられるように。 

この主人公の地に足がついてない思考や言動が夢見心地気分にさせたのかもしれない。流れる空気は深い絶望や失望ではなくとても穏やかで、だけどじわじわと胸に浸食する淋しさがあった。それすらもなんだか非現実的でふわふわした気分になった。 

それでいろいろあって健吾の新しく引っ越した家に行くことになって、中を開けてみると別れる原因となった華子がいるんですよね。それまでは夢見心地だったのにその女性を前にすると痛みだとか悲しみだとか喪失感が浮き彫りになって現実に引き戻される。 

なのに突然華子が家に来て一緒に住むこととなる。主人公はびっくりするんだけど、華子を介して健吾を感じることに喜びを感じるんです。健吾はこの人のどこを好ましく感じてるんだろうとか、健吾がこのことを知ったらどんな顔するんだろうとか、とか。 

この時点で主人公はめちゃめちゃ不健全な思考をしてるなと思いました。とてもとても歪なのに文章が軽やかに書かれてるせいか、はたまた不健全だ!って指摘する登場人物がいなかったからか、主人公の不健全性は読んでる最中にはじんわりとしか感じられないんですけど。 

この健吾への執着はとってもとってもねっちょりとしてて(言い方)なのに主人公はそのねっちょりとした部分を綺麗に仕舞い込んで美しい部分しか出さない。いや、言い方がよくないかも。なんだろう。こう、健吾にとって最善であるように、健吾が健やかであるようにっていう清廉な指針に隠されてその根本にあるねっちょりした執着がほとんど見えないようになってるんですね。たぶん序盤では主人公も気づいてない。 
そんな主人公が華子と暮らすのは凄い不思議だったんですが、とても安らかで平穏だった気がする。夏の少し涼しい夕暮れ時に窓を開けて、冷たい麦茶を飲む…みたいな空気感。 

自由奔放で誰の手からもするりと逃げてしまうような華子は最後まで読んでも読者にそのベールの下を見せてくれなかった。結局、彼女のことは何もわからなかったんだけれどその軽やかさに、身軽さに、自分勝手さに登場人物達はみんな惹き込まれてしまったんだろうなあと思います。わたしも華子に惹きこまれた。言いようのない魅力?思わず追いかけて振り向いてもらいたくなるような、そんな気分にさせられる。 

で、主人公である梨香もその魅力に囚われた1人なんですね。恋人を奪った側と奪われた側なのに。 
でも梨香は他の登場人物と違って、その執着を結局華子には向けなかった。(最終的には華子にもある種の執着を向けるんだけど、健吾の時同様に絶妙な具合で曝け出さなかった) 

それが、華子にとって特別だったのかあるいはもっと別のところに特別があったかわからないけれど華子は梨香に大切な愛する弟を紹介したり、2人で1日限りの逃避行をしたりする。で、その逃避行の後華子は自殺する。理由はわからない。 
華子はずっとすべてから逃げたかった。と梨香に語る。たぶん、今まで誰にもいえなかったことではないか、とわたしは勝手に邪推する。 
早くゲームオーバーになってほしいとぼんやり思ってるなかで、梨香と暮らしてなにかが満たされたのかもしれない。ほんとうは女友達がずっと欲しかったのかもしれない。これも勝手な邪推。 
極端に荷物が少ない華子はみんなからの期待や愛情や執着や憎悪や怒り、その他のすべてを厭わしいと、そんなもの背負わず身軽にいつでもどこへでも行けるように、後ろ髪を引っ張られないように生きてたんだろうな。 

めちゃめちゃ話逸れた!あーーーー、なんか呼んでるとほんとうに不思議な心地になる。是非読んでこの心地に陥ってくれ。 
でも最後に梨香が健吾の気持ちとか考えずにわたしと寝てって強行突破したのは華子と暮らして、もう少し自分勝手生きていんだって思えたからだと思う。そして華子がいなくなって自分もおそらく健吾もいない華子に囚われてるのを唐突に感じて現実で生きるって決めたのはめちゃめちゃ地に足がついた心地になった!ふわふわじゃなくなった。 
あと、最初らへんわたしの記憶違いでなければ主人公の名前全然出てこなかったんですよね。まぁ、主人公のほかに健吾しか出てこなかったし、最初。この理由はなんか主人公の自我が華子と暮らすことでどんどん目覚めてきたからかなと思った(?)いや、日本語下手すぎる。なんかそんな感じ。 

とにかくめちゃめちゃ華子と梨香の関係性よかった。というかわたし好みでした。江國香織の他の本も読もうと思います。